模擬裁判を楽しむために
—参考資料—
訴状・答弁書
訴訟を起こすとき、裁判所に訴状を提出する必要があります。
訴状の記載内容
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「訴状」という表題
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訴状作成年月日
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提出先の裁判所名
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訴状提出者の氏名,押印
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事件名(被告に求めるもの)
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訴訟物の価額(請求の内容を金額に換算する)
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貼用印紙額(訴え手数料とその金額を記す)
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原告(原告の住所氏名,電話番号,ファクシミリ番号及び書類の送達場所)
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被告(被告の住所氏名(さらに,判明している場合は,電話番号,勤務先の所在地・名称))
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請求の趣旨
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請求の原因(紛争の内容と原告の主張)
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証拠(原告が提出する証拠は,「甲第○号証」となる)
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附属書類(訴状(正本)の他に提出する書類)
訴状が届いたら、被告は答弁書を提出しなければなりません。
答弁書にはテンプレートがあり、それを埋めて提出することができます。答弁書を出さない場合は原告の主張がそのまま認められることがあります。
答弁書の記載内容
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「答弁書」という表題
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答弁書作成年月日
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原告
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被告
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貼用印紙額
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請求の趣旨に対する答弁
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紛争の要点に対する答弁
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添付書類
シーン1
【登場人物】
証人(原告側):南原 千春(学習塾ローレル 経営者・講師)
原告代理人:常守 藍
被告代理人:東雲 梓
【論点】
①大坂教諭が尊につけた「2」の評価は妥当なものか
②駒場県公立高校入試における内申点の影響の大きさはどの程度か
③志望校の変更は尊の将来にどの程度の影響を及ぼしたと考えられるか
④尊はどの程度の精神的打撃を受けていたのか、またその原因は何か
【双方の主張】
主尋問(原告側)
①高校入試で内申が重視されていることも考慮して、尊が不利にならないよう配慮すべきだった
②高校入試における内申点の比重は極めて大きく、その影響をその他の得点源によって払拭することは不可能
関連資料:内申点のしくみ、高校入試のしくみ
③高校入試の結果は、大学受験からから就職までその後の人生に重大な影響をもたらす
関連資料:進学実績表、年収表
④内申点が原因で志望校を変更せざるを得なくなり、尊は極めて大きな精神的打撃を被っていた
反対尋問(原告側)
①特定の生徒に配慮して評価を変えることはむしろ公平性を損なう
②内申点の一部が低くても、本人の努力によって挽回することができる
③出身高校に関わらず、様々な進路に進む可能性は開かれている。そもそも、偏差値の高い学校に進むことが「成功」であると見なすべきか疑わしい
④尊が志望校変更によって心の傷を負っていたとしても、志望校を変更させたのは中学校ではなく塾であり、中学校に責任はない
【みどころ】
証人と代理人の問答はだんだんと熱を帯び、論題は、教育格差や、「学歴」を重視する日本社会のしくみにまで広がっていきます。尊を自殺に追いやったのは、内申点をつけた中学校でしょうか。それとも、志望校の変更を提案した塾でしょうか。あるいは、内申点を重視する高校入試制度がいけないのでしょうか。それとも、トラッキングや採用における学歴重視など、より大きな社会の構造に問題があるのでしょうか。誰かを責任者として名指しするだけでは終わらない、問題の根深さを感じていただければ幸いです。
用語解説
シーン2
【登場人物】
証人(被告側):大坂 謡子(相和市立第三中学校 音楽教員)
原告代理人:高山 H.A. 博美
被告代理人:津田 麻唯子
【概要】
尊に5段階中2という評価をつけた音楽教師を証人として、尊の試験時の様子や2をつけた経緯、証人の選択性緘黙についての認識、配慮の必要性などを明らかにしていきます。その過程で、中学校の体制の問題点や教員の過酷な労働環境も明らかになっていきます。
【双方の主張】
主尋問(被告側)
①音楽の授業・歌唱テストについて
②内申について証人の認識、生徒の様子
・乙1号証
③尊のテストでの様子、普段とどう違うか
④尊が選択性緘黙であることを知っていたか
⑤尊への評価についてどう考えているか
⑥波多野家から抗議を受けた時の対応について
⑦教員の普段の労働環境
反対尋問(原告側)
①テストの時の尊の様子
②なぜ波多野家からの抗議を受け入れなかったのか
③尊の授業態度について
④選択性緘黙について証人の認識、教師はどこまで配慮すべきなのか
・甲1,2号証
【みどころ】
・まず、選択性緘黙をはじめとした障害の捉え方についてぜひ考えてみてください(次項「合理的配慮」も参照)。障害は本当に「甘え」なのでしょうか。
・様々な事情がある中、音楽教師は尊が選択性緘黙を抱えることについてどこまで配慮すべきだったのでしょうか。
用語解説
シーン3
【登場人物】
証人(被告側):狸将 厚子(相和市立第三中学校 校長)
原告代理人:深山 研介
被告代理人:蓮見 凛
【概要】
学校全体を管理し、校内で最大の権限を持つ校長の立場から、尊の選択性緘黙に対する配慮はあったのか、注意義務は十分に果たしたと言えるか、成績評価は適切であったかについて改めて問います。さらに尊の母親が成績変更を要求した時にどのような対応をしたか、その対応は適切だったか、また自殺を予見することは可能であったかも主要な論点です。
【論点】
①音楽教諭の成績評価は公平かつ合理的であったか
②学校全体として、特に校長や管理職の立場からすべきことはなかったか
③尊の母親の成績評価の要求を受け入れなかったことは適切な対応だったか
④尊の自殺は予見可能であったか
【双方の主張】
主尋問(被告側)
①自殺を予見することは不可能であった
②その学期の音楽の成績に2がつけられたのは、極めて合理的かつ公平である
③学校側の対応は現実的に見て十分だったと言える
④成績評価変更の要求の事実確認と却下した理由の妥当性
反対尋問(原告側)
①学校側は選択性緘黙について十分な対応を行なったとは言えない
②成績評価は不当であった
③管理職側の人間の怠慢も要因とあるのではないか
④校長は、成績を受理する際に一通り目を通すと思うが、2という評価にその時点で対応すべきではなかったか
⑤自殺を予見することは可能であった
⑥母親から成績を考え直すよう訴えられた時に、変更しなかったのは不適切である
【みどころ】
公平という言葉をどう捉えるか、どういった場面で合理的配慮は必要なのか、教員の厳しい労働環境という現実をどう見るかなど、原告と被告の両者が真っ向からお互いの主張をぶつけ合うところがみどころです。特に観客のみなさんには、「公平」や「平等」という言葉が持つ意味や、現実でその概念を扱う難しさなどを今一度考える機会にして頂きたいです。
用語解説
シーン4
【登場人物】
証人(原告側):波多野 頼子(故・波多野 尊の母)
原告代理人:立花 千鶴
被告代理人:森山 英史
【論点】
①尊は音楽の実技試験によって心の傷を負っていたか、またその程度はどれほどか
②尊の選択制緘黙について学校に十分な情報提供がなされていたか
③尊の母親の成績変更の要求に対する学校の対応は適切か
④尊の自殺に関して、尊本人やその両親にも責任があるか
主尋問(原告側)
①尊は音楽の実技試験の方式および自身につけられた評価によって大きな心の傷を負った
②尊は音楽の評点のために志望校の変更を余儀なくされ、心の傷は一層深刻なものとなった
③上記①②の結果、尊は自殺するに至った
④成績変更の要求に対する学校側の対応は不適切である
反対尋問(被告側)
①選択制緘黙についての保護者から学校への情報提供が不足していた
②尊の自殺の原因は、両親との関係の中にこそ求められる
③両親は、尊の自殺を予見し、適切にケアをするべきだった
【みどころ】
わが子を失った母親を証人とし、自殺の前後の尊の心境に迫ることを主眼としたシーンです。その過程で見える母親の愛情の深さと表裏一体に、親が子どもにかける期待の重さも増えていきます。親は子どもに対して以下に接するべきか、答えのない問いを考えるきっかけになれば幸いです。